NMRがどのような現象なのか、簡単に説明します。

 

すべての物質は多数の原子から構成されています。また、原子は原子核と電子から構成されます。NMRはその名の通り、「原子核」に注目した研究手法です。「核」と言っても核爆弾とは関係ありません。簡単に言うとNMRとは下記のような現象です。

 

原子核は小さな磁石の性質を持っています。これは原子核の持つ核スピンと関係しています。

 

この磁石に磁場をかけると、磁場と同じ方向を向いた安定な状態と反対向きの不安定な状態ができます。

 

 

この二つのエネルギー差に対応する高周波磁場を外から与えると、エネルギーの低い状態から高い状態への遷移が起こります。これを「共鳴」といいます(上左図)。 共鳴しているのは核スピンであるため、この共鳴を「核磁気共鳴(NMR)」といいます。共鳴スペクトル(信号強度の周波数(磁場)依存性)を測定し、原子核周りの電子状態を調べることができます。

また、核スピンは高周波磁場により得たエネルギーを周りの格子系(伝導電子など)に放出することにより、元の状態に戻ります(上右図)。共鳴後、元の状態に戻るまでの時間を緩和時間といいます。原子核周りにエネルギーをもらってくれる相手が居るかどうかなどにより、緩和時間は大きく変わります。よって、緩和時間を測定することにより電子状態を調べることができます。

固体のNMR/NQR測定では、共鳴現象を観測するためにパルス法がよく用いられます。パルス法により観測されるスピンエコーを利用し、共鳴スペクトルや緩和時間を測定します。スピンエコーについてはWikipediaにわかりやすい図があったのでそちらを見てください。

NMRを医療用に応用したものが磁気共鳴映像法(Magnetic Resonance Imaging:MRI)です。人体の約2/3は水(H2O)から構成されています。また、脂肪などにも水素原子が含まれています。MRIではこの人体に多く存在する水素原子(1H:プロトン)の共鳴を利用しています。 測定には数十MHzの電磁波を用いるため、放射線被曝することなく体内の断面像を撮影することができます。

(参考:核磁気モーメントと外部磁場によるゼーマン相互作用ハミルトニアンの数値対角化による共鳴周波数の計算例)