NQRがどのような現象なのか、簡単に説明します。
核スピン\({\small I}\)が1以上の原子核ではその電荷分布が球対称からずれます(上図の左)。この時、原子核は核四重極モーメント\({\small Q}\)(核四極子モーメントとも言う)を持ちます。NQRではこの電荷分布の球対称からのずれを利用します。
\({\small I=1/2}\)の場合、上図(右)の様に電荷分布は球対称で\({\small Q=0}\)となります。つまり、NQR測定はできません。
上図のように、原子核周りに(他のイオンなどによる)電荷を配置します。原子核位置には電荷による電場が生じます。また、電場の傾きを電場勾配と言います。
(参考:Juliaによる電場勾配の計算例)
上の二つの場合について考えてみます。
- 上図(左)の場合、6方向それぞれに同じ大きさの電荷が配置されています。計算してみるとわかりますが、この場合、原子核位置に電場勾配はありません。
- 上図(右)の場合、z軸方向のみに電荷が存在し、原子核位置に電場勾配が存在します。
この先の説明からわかりますが、電場勾配が存在することがNQR測定の必須条件です。イオンが自由に動き回る状況では結果的に電荷分布が等方的になるため、電場勾配が存在しません。つまり、液体や気体のNQR測定はできません。
これから先では核スピン\({\small I=3/2}\)で原子核周りに2個の正電荷がある場合を考えます。
原子核周りに電荷が何も無い場合、もちろん電場勾配はありません。その場合、原子核は縦横のどちらを向いてもエネルギーは同じです。
これに2個の正電荷を配置すると、原子核のエネルギーは安定な状態と不安定な状態にわかれます。なぜ縦横だけで斜めを向いた状態が無いのだろうと思った人も居るかもしれません。ミクロな世界は量子力学で説明されますが、それによると\({\small I=3/2}\)の場合はこの二つの状態しか許されません。
この二つのエネルギー差に対応する高周波磁場を外から与えるとエネルギーの低い状態から高い状態への遷移が起こります。これを「共鳴」といいます(NMRと同じですね)。 共鳴しているのは核四重極モーメントであるため,この共鳴を「核四重極共鳴(NQR)」といいます。共鳴スペクトルや緩和時間を測定し、原子核周りの電子状態を調べることができます。